松江大橋の袂に 、メガネのセレクトショップがある。
名前はGLASSES VALLEY (グラスバレ)。
一見、カフェ又は雑貨屋と思わせるオシャレな佇まいの建物は、もともと病院だった。
そこを改装し、メガネのセレクトショップとして営業している。
一点だけ他の眼鏡店と違うのが、オリジナルブランドのメガネを作っているメーカーでもあること。Immatureというブランドを全国の眼鏡店に卸していて、香港や台湾などからも取扱いの問い合わせがきている。Immatureは、MEN’S EXなどの雑誌にも取り上げられている注目のブランドだ。
このセレクトショップ兼メーカーのオーナーが、三須さんという映画で主役を喰ってしまう個性派俳優のような、独特な雰囲気をもっている、とてもかっこいい人だ。
もともと三重県出身の三須さんは、自分に合った仕事を探すため、様々な仕事に就いていたが、結婚を機に奥さんの出身地である松江にIターンしてきた。そこで眼鏡店に勤めだした。
特に不満があるわけではなかったが、もっと洗練されたファッション性の高いメガネもお客さんに提案したかった三須さんは、当時の社長に直談判するも、田舎では売れないと一蹴されてしまう。
それがきっかけになり、それなら自分でやってやろうと独立を決意。
「少し意地になってたかもしれません。」
当時を振り返り、少し笑いながら、三須さんは言った。
年末に勤めていたその眼鏡店を辞め、年明けからお店を開く算段だったが、29歳で子供もいた当時の三須さんには、お金もなければ、店を開いた経験もなかった。
とにかく開業資金を借りようと、県内の銀行や商工会議所に出向くが、どこも返事はNo。唯一、県内の信用金庫だけが、「データ、根拠が不足している」と、なぜダメなのか教えてくれた。
なるほど、根拠が足りないのかと、借りる予定の物件の前で一日中通る人や車の数を数えたり、夜は暗くなるから電飾看板を取り付ければとても目立つなど、三須さんなりに、根拠を集めた。
そこから何度も事業計画書を持って行っては、ここが足りないなどいわれ、断られたが、その度に新たな根拠を集めて、再提出を続けた。
「単純な性格だから、ここがダメと言われたら、そこをクリアすれば融資してもらえると思って、必死で計画を練り直したりしました(笑)」と少し自虐的に話す三須さん。でも、誰にでもできることじゃない。バイタリティーの塊のような人だ。
年が明けてそんなやりとりが続いていたある日、信用金庫からとりあえず、上に稟議をあげるからという連絡がきた。融資がほぼ決まったのだ。
あとあとの話だが、あまりに何度も来る三須さんを見兼ねて、支店長が自らの決済で融資は決まったようだ。
そんなこんなで、融資が決まったと思った三須さんは、なけなしの現金で東京に行き、雑誌に載っている眼鏡屋さんを一軒一軒まわって、メーカーさんを紹介してもらうようお願いした。すごい行動力!
なんとか、取り扱うメガネの仕入先も確保し、 機械なども購入して、ちゃくちゃくと開店に向けて準備していた。
ただ、一向に信用金庫から融資実行の連絡がない。。。
不安に思った三須さんは、電話をかけると、「まだ融資が決まったわけはないですよ。今上に稟議あげている段階で承認待ちです。」と信用金庫。
えっー、3月には、家賃、仕入、機械の支払いが発生するのに。。。
「あの時は本当にひやひやしました。。すでにメガネや機械を購入してましたし。。。」
なんとかこの問題も3月の支払い前に融資が正式に決まり、実行された。
そして、平成10年の3月21日に無事に創業にこぎつけたグラスバレ。
(『OPtMAN(オプトマン)』という名前で創業、その後グラスバレに)
創業時の経営はしんどいのかと思いきや、「初月はめちゃめちゃ売れましたね。」と、三須さん。
俺がやったらやっぱこんなもんだよと思っていたら、その次の月からがくっと売上は落ちる。初月は、折り込み広告など宣伝にお金をかけたので、再びタウン誌に広告を打つと売上は伸びた。
少し気をよくした三須さんは、広告の一番大きい枠を買い、メガネも大量に仕入れた。
ところが、メガネの卸業者との契約で、貸し出しと思っていたのが、全て買取になり、多額の現金を支払わないといけない状況に。
「キャッシュがどうしても足りなくて。。。支払いが出来なく、潰れるかと思いました。銀行も追加融資してくれない状況で。」
ただ、ここでも神は三須さんを見捨てなかった。
業者の集金担当者が、集金日にどうしてもお店に行けないから、振り込んでくれと電話してきたのだ。三須さんは、うちは現金取引だからと断ると、じゃあ来月に回してくれと先方。
「仕方ないなーと電話でいいましたけど、内心ほっとしました。(笑)」
なんとか、来月に支払いが遅れたことで、再びピンチを乗り越えた三須さん。
そこからは、コンスタントに売り上げをあげていき、山陰でも知名度があがっていった。
その後、会社組織にして、自社ブランドも立ち上げ、従業員を20人も雇い、店舗も山陰で6店舗まで増やした。田舎だから発売日や取扱いが遅れるのが嫌で、直接ミラノ、パリ、ニューヨークまで買い付けに行ったりした。
さらなる拡大と安定を目指し、イタリアの知り合いのデザイナーが立ち上げたブランドの代理店になった。2年間は赤字だったが、3年目以降、黒字に転換する先行投資のつもりだった。
しかし、3年目にそのブランドは倒産。
また、島根の市場に様々な大手メガネチェーンが参入してきた。
そこに追い打ちをかけるように、リーマンショック。
急激に経営が苦しくなる。
店舗も縮小、統合し、今の場所に集約することにした。
創業してから16年。様々な試行錯誤や紆余曲折がありながらも、山陰で確固たるセレクトショップとしての地位を得て、また全国的にも有名なブランドのメーカーとして輝き続けるグラスバレ。
セレクトショップであること。
オリジナルブランドのメーカーであること。
何よりメガネで自分を変える楽しみを提案し続けるお店であること。
三須さんのこだわりのお店は、全国のメガネ愛用者から絶大な支持を得ている。
メガネの洗浄や修理だけに来るお客さんも多く、人生経験豊富な三須さんとの会話も来店の楽しみの一つである。
「セレクトSHOPというファッション的な側面、メーカーとしての職人的な側面、またメガネを取り扱う医療的な側面、眼鏡屋は奥が深い。まだまだ、勉強し続けなければならない」と三須さん。
はじめて店を訪れた際、オリジナルブランドではないメガネを勧めてくれた。利幅の大きいであろうオリジナルブランドを勧められると思っていたが、良い意味でそれは裏切られた。
「決して店側の押し付けではなく、本当にその方に合うメガネを提案する。それで、自分を変える楽しみを味わって欲しい。」
当たり前のようだけど、それをサラッという三須さんの笑顔がとても眩しかった。
GLASSES VALLEY(グラスバレ)
〒690-0843
島根県松江市末次本町39
TEL 0852-32-8553
不定休